神田に有名なお蕎麦屋さんがある。
蕎麦といえば江戸っこ、酒が飲みたきゃ蕎麦屋にいけと鮨屋では言われる、なんて話もあり、お蕎麦屋さんの焼鳥や湯葉刺しや天たねなんかも、ツマミ好きの私には最高である。
リモートワークになってから、
たまーに、この蕎麦屋を好きな母と待ち合わせて、お昼を食べにいくことがある。
このお蕎麦屋さんには、必ず1人の常連さんが、いつ来ても同じ席で、甚平をきて、お酒を飲んでいる姿がみえる。わたしは、蕎麦屋のぬし、と思っている。
毎日、必ず同じ席で、ゆっくりとお酒を飲んでいる。まさに江戸っこである。
携帯や本などは、手元に置いたためしがない。
私たちより遅くくることも、早く出ることもない。
身ひとつで、何を思いながらか、顔を赤くすることもなく、酒を飲んでいる。
このうえなく、かっこいいのだ。
このおじいさんにとれば、私たちは目の前を通り過ぎていく客のひとりだった。
まだ暑い盛りに蕎麦屋を訪れた時、母が帰りがけにぬしに話しかけていた。
私はすでに出口近くで、遠くからその光景をみていた。何やら笑顔になり談笑して、ぬしは会話のおわりに私にも視線をむけ、どうも、と会釈してくれた。私が母の連れだと、きちんと知っていたのだった。こちらへの配慮があったことに私は感動してしまった。
見るともなくぬしは店内の様子を眺め、知っていたのだった。やはり生粋の江戸っ子とのこと。
そして初めてきちんと表情を拝見して、ふと、なんだか前に見たより随分と若く、、若返っているように思えた。
おじいさんだと思っていたけれど、、いったいいくつなのだろう。
目の前を流れていく客の出入りを見ながら、今日もどんな気分でお酒を飲んでいるのだろう。